そもそもコトラーのマーケティング4.0ってなに?

「近代マーケティングの父」、「マーケティングの神様」とも称されるフィリップコトラー氏をご存じでしょうか。彼は数多のマーケティングに関する論文や書籍を出版しています。特に有名なのが2010年発売の「マーケティング3.0」という書籍ではないでしょうか。

この書籍では現在のマーケティングスタイルにたどり着くまでの変遷が描かれています。当時、彼自身はマーケティング3.0を研究の集大成と捉えていたようです(参考文献①P1-2)。

しかし、2016年「マーケティング4.0」が発売されました。実際、技術革新は約5年で大きく進み、スマートフォンなどが一般的になってきたのもこの時代でした。

コトラー氏は書籍内で「技術自体は新しいものではないかもしれないが、技術の融合によって世界中のマーケティングに大きな影響を与えている。そしてこの融合は伝統的マーケティングとデジタルマーケティングの融合につながると考えている。」と述べています(参考文献①P2-3)。

本記事ではこれらの時代の変化を踏まえてマーケティング3.0から何が変わったのか、新しい考え方とは何かを中心に取り上げていきます。

マーケティング3.0からの変更点

コトラー氏によるとマーケティングは製品中心の時代、消費者志向中心の時代を経て共感価値主導の時代へと変化したとされています。これがマーケティング3.0と言われていました。

しかしコトラー氏は現在をマーケティング4.0の時代と捉え、本書内でその時代を「オンラインとオフラインの交流を一体化させる時代」と定めました(参考文献①P76)。

つまりは「テクノロジーの発達によってオンライン化が進む一方で、オフラインでの交流やブランドの本物の個性(オーセンティシティ)が過去類を見ないほどに重要になってきている」というのです(参考文献①P76)。

時代に合ったフレームワーク

このように根幹が大きく変わると、かつては有効であったテクニックや考え方にも変化を及ぼします。コトラー氏はマーケティング4.0になったことでカスタマージャーニーを説明する上でよく使われるフレームワークに変化が生じたと考えています。

そもそも既存のフレームワークもマーケティング4.0という時代になる前から様々な人によって修正が加えられてきました。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のデレク・ラッカー氏は4Aと呼ばれるAIDAの修正版を提唱しています。

4Aフレームワーク(図参照)は顧客が検討対象のブランドを評価する際に経る漏斗のように直線的で単純なモデルで、認知(Awareness)・態度(Attitude)・行動(Act)・再行動(Act Again)の頭文字を取っています(参考文献①P94)。

また、このモデルは各フェーズを抜けるたびに残るブランドや人数が少なくなっていくため逆三角形の形になります。

しかし、マーケティング4.0の時代になったことでこのフレームワークにも変化が起きたとコトラー氏は考えています。新たなフレームワークである5Aでは「態度」の代わりに「訴求(Appeal)」「調査(Ask)」、そして「再行動」の代わりに「推奨(Advocate)」が入ることになりました。

それぞれの役割の変化を考えてみます。4Aではブランドを認知した後にそのブランドが好きか嫌いか、そのブランドに対してどのような感情を抱くかを態度段階と定義していました。しかし5Aにおいてはまず認知段階で扱った様々なブランドの情報を元に自らが引き付けられる少数のブランドを決定します(訴求段階)。

その後調査段階において、自らが属するコミュニティーや周囲の人間とのやり取りから生まれる情報と訴求段階で得た情報とすり合わせ、納得感があるかどうかを確認します。そこから行動段階を挟んで、推奨段階へと移行します。推奨段階では4Aの再行動段階の構成要素である再購入率や顧客維持率だけでなく、他者への推奨率も加味されるようになりました。

前者の態度⇒訴求・調査の変化に関してですが、4Aフレームワークが有効だったころは個人がブランドに対する評価を決めていました。しかしデジタル化が進み、希薄になっていた人との繋がりが再び強くなった結果、個人だけでブランドに対する態度を決めることが困難になりました。そして周囲の意見や自分が属するコミュニティの価値観をブランドに対する態度を決める際に取り入れるようになったのです。

そして後者の再行動⇒推奨の変化に関してですが、こちらも前者の変化と同様デジタル化が進み世界中と容易につながれる時代になったことによって生じたものです。顧客が属するコミュニティはその顧客に近しい価値観やブランドに対する認識を持っていることが多いため、周囲に訴えかける力すなわち推奨という行動が重要視されるようになりました。

新たな考え方「推奨」がもたらすものとは

後者の変化である「推奨」をもう少し詳しく説明します。かつてロイヤルティは再購入率や顧客維持率と同等のものであると捉えられてきました。しかし今の時代ではそのロイヤルティは究極的には「ブランドを推奨する意思」と定義されるようになりました。

特に最近では購入のきっかけがインフルエンサーの宣伝やおすすめであるという人の割合が増えています。またインフルエンサー自身もそのブランドを用いることで現在のポジションを獲得している側面もあるため彼ら・彼女らがそのブランドを将来的にさらに購入する可能性を高いと言えるのではないでしょうか。このような時代だからこそ「推奨」というフェーズがカスタマージャーニーに欠かせなくなってきています。

また4Aの時代と異なり、この5Aモデルは漏斗型でもなければ直線的でもありません。らせん状になることもあれば中間のフェーズ飛ばして進んでいくこともあります。これは顧客自身がどのような形でそのブランドを認識したかや産業構造によって変わってくるとコトラー氏は述べています(参考文献①P100-102)。

つまりは4Aモデルみたくフェーズを経るごとに検討されるブランド数が減るわけではなく、検討されるブランド数がフェーズごとに増加したり減少したりと変動するモデルなのです。

まとめ

当記事ではマーケティング3.0から4.0に至るまでの変遷、そしてその変化によって生じた新たなフレームワークに関して解説しました。3.0から4.0に至るまで年数で考えると大した時間はなかったように感じるかもしれませんが、内部にはかなりの変化があるということにお気づきいただけたのではないでしょうか。

参考文献

①コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則

フィリップ・コトラー、ヘルマワン・カルタジャヤ、イワン・セティアワン著

恩藏直人監訳、藤井清美訳

朝日新聞出版 2017年

 

②Marketing Management 4th European Edition 

Kotler, P., Keller, K.L., Brady, M., Goodman, M., and Hansen, T. 

Pearson 2019